広島高等裁判所 平成4年(行コ)1号 判決 1994年4月21日
控訴人
奥浪良之
右訴訟代理人弁護士
木村豊
同
吉田修
被控訴人
三原市
右代表者市長
山本清治
右訴訟代理人弁護士
江島晴夫
同
安村和幸
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審で追加した訴えの部分を却下する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(一) 原判決を取消す。
(二) 被控訴人が、控訴人に対し、昭和六一年二月一三日付でした備後圏都市計画事業三原駅前第一種市街地再開発事業の権利変換計画において控訴人が取得した建築施設の部分の価額を三二二四万七三八二円と確定する旨の処分を取り消す。
(三) 被控訴人が、控訴人に対し、昭和六一年二月一三日付でした備後圏都市計画事業三原駅前第一種市街地再開発事業の権利変換計画において控訴人が取得した建築施設の部分の価額を三二二四万七三八二円と確定する旨の通知処分を取り消す。(当審において請求追加)
(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文一、三項と同旨
控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
第二 当事者の主張
控訴人の主張として次のとおり加えるほかは、原判決の事実摘示欄(原判決二枚目表六行目から一五枚目表一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。
「被控訴人のなした本件処分が違法であることは、次の各点からも明らかである。
1 控訴人が取得したとされる本件権利変換計画における建築施設の部分の概算額算定の根拠が明らかでない。被控訴人は、権利変換計画の段階における概算額より現実に控訴人が取得した価額が高額であるのに、被控訴人においてその差額を請求しないのだから控訴人に不利益はない旨主張するが、そもそも概算額算定の根拠が明らかでなくその権利の価額自体が不明確なことが問題である。
2 当初権利変換処分として通知された施設建築物は、その後の権利計画変更によって現実に完成したとされる施設建築物との間に大きな差異が生じている。その結果、控訴人が取得すべき権利も、当初権利変換処分の通知に記載されていた状況と現実に完成したとされる施設建築物の実態によってその状況が異なることとなった。したがって、当初の権利変換処分の権利の状況を前提にし、現実に完成した施設建築物の価額を反映せず価額を確定した本件処分は違法である。
3 本件建物は構造上または利用上明確に他の部分と識別できる状態にはないのであるから、区分所有建物であることを前提になされた本件処分は違法である。」
第三 証拠の関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 控訴人は、当審において新たに本件処分の「通知処分」の取消を求める訴えを提起したが、この通知自体は控訴人の法律上の地位に何らの法律的変動をもたらすものではないのであるから、行政事件訴訟法三条二項にいう抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とはいえないと解するのが相当である。
そうすると、当審において新たに追加された訴えの部分は、法律の求める要件を満たしておらず、不適法な訴えというべきであり、却下を免れない。
二 当裁判所は、控訴人の本訴請求(当審において追加された部分を除く。)は理由がないから、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは原判決の理由欄(原判決一六枚目表二行目から二六枚目裏六行目まで)と同一であるから、これを引用する。
1 控訴人は、本件権利変換計画における建築施設の部分の概算額算定の根拠が明らかでないうえ、当初権利変換処分として通知された施設建築物と、その後の権利計画変更によって現実に完成したとされる施設建築物との間に大きな差異が生じているのに、本件処分は、当初の権利変換処分の権利の状況を前提にし、現実に完成した施設建築物の価額を反映せず価額を確定したものであるから違法である旨主張する。
しかしながら、都市再開発法に規定されているように、概算額等が定められた権利変換計画が認可され、権利変換期日が到来した後に、土地の明渡しや建築工事その他の工事が着手されるのであるから、現実の工事がなされる以前の段階における概算額で厳密な評価をすることはそもそも不可能であり、必然的に見込額とならざるを得ないのであって、そのため工事完了後に価額の確定処分が行われるのである。
したがって、概算額決定の時点で厳密な評価を行うことが出来ないのは法の規定上当然のことであって、控訴人のこの点に関する主張は理由がない。
そして、乙第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、概算額の決定についても違法な点があるとは認められない。
次に、原審証人大枝潔の証言及び弁論の全趣旨ならびにこれにより真正に成立したものと認められる乙第一五ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし九、第二一号証の一ないし一一、第二二ないし第二五号証、第二六号証の一・二、第二七、二八号証、第二九号証の一ないし一八、第三〇号証の一ないし三〇、第三一号証の一ないし一八、第三二号証の一ないし三〇によれば、本件処分は、そもそも当初の権利変換処分の段階における権利の状況を前提になされたのではなく、いったん都市再開発法及び同法施行令に規定されているとおり現実に完成した施設建物について価額を算出したうえ、右算出の結果によれば概算額よりも現実に完成した建築施設の方が高額となったことをふまえ、従前の各権利者が新たに精算金を支払わなくてすむよう(現実に完成した施設建築物について算出された金額よりも低額の)概算額をもって確定額としたにすぎないことが認められ(その結果として、確定額の金額が概算額と同額とされたのであり、現実に完成した施設建築物が当初権利変換処分として通知された施設建築物であるとして評価されたのではない。)、そのように処理することは同法一〇三条一項の規定上許されているというべきであるから、本件処分に違法な点があるとは認められない。
2 控訴人は、本件建物の現状や区分建物としての登記がなされた日から約六年後の平成四年九月撮影の写真等(甲一七)によれば、本件建物は区分建物とはいえないと主張するが、乙第一二号証(別件訴訟における影山哲男の証人調書)によれば、登記官影山は、被控訴人から提出された本件建物についての区分建物の表示登記及び所有権保存登記の嘱託書と権利変換計画書との照合等の調査をし、昭和六一年一二月に他の登記官一名と事務官一名の合計三名で本件建物について実地調査に赴いたところ、シャッター、壁、強化性のガラスドア、パネルフラッシュ板(縦約三メートル、横約一メートル、厚さ二ないし三センチメートルの合板張り合わせで、かなり強靱な材質のもの)等によって区画されていたことから、本件建物を構造上区分建物であると現地に赴いた三名一致で認め、その旨の登記をしたことが認められる。
以上によれば、本件建物が区分建物として登記された昭和六一年一二月二〇日当時、本件建物は区分建物としての実質を備えていたと認定するのが相当であり、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、本件建物が区分建物でないことを前提とする控訴人の主張は失当といえる。
三 よって、控訴人の本訴各請求のうち当審で追加された訴えを却下し、その余の請求部分についてはこれを棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荒井眞治 裁判官 古川行男 裁判官 岡原剛)